病院


あらカムラさん そんなにあわててどうしたのですか。
 鉄の蓋が閉ざされた炉の前にいたのは例の看護婦で 看護婦は椅子に腰をおろして本を読んでいた。
 看護婦は顔をあげて ちょっと驚いた顔でそう言った。
 ナイチンゲールみたいなナースキャップをかぶっていて 紺色のカーディガンを羽織った 薄い桃色の看護服の ワンピースの裾からのぞく白いストッキングと 小さな足をつつむ白いナースシューズ。
 顔は丁寧に整えられていて 細い眉に 黒目がちの瞳 グロスで濡れたように光っている ゆたかなピンク色の唇 女性的なやわらかい頬のライン 肩口くらいまでの黒髪で 前髪は知性的に分けられている。
 ううむ この看護婦 結構かわいいんじゃないだろうか。
 看護婦は本を閉じて椅子から立ち上がった。
 カーディガンは胸元でなまめかしい稜線をえがき きゃしゃな腰に 細い指先。
 どうしてこんな とんでもない美人が こんなよくわからないところにいるのだろう。
 と 懊悩している僕を 看護婦はじっと見つめている。
 そうだ そんな場合じゃない。
 きみ きみ もしかして ここで焼いているのは もしかして僕ではないのかい。
 僕は 看護婦の後ろで轟音を立てている炉を (正確に言えば炉の蓋を) 指さした。
 看護婦は その指にそって振り返り その錆びた炉の蓋をちょっと見つめた後 またゆっくりと 僕に顔の向きを戻した。
 そうです あたりまえじゃないですか。
 こともなげに看護婦は言うと うふふ と やわらかい微笑を浮かべた。
 それは知恵の遅れた子供を嘲る笑みにも見えたし 死にゆく人の手をとる マザー・テレサの笑みにも見えた。
 あたりまえ?
 と僕が訊くと 看護婦は小さなあごをひいて うなずいた。
 そうですよ だってあなた ここはそういう病院じゃないですか。
 いや 僕は つい最近ここに越してきたばっかりで このあたりのことはよく知らないのだ。
 ああ なるほど そういうことですか。
 と 看護婦は 納得したように手をあわせて ううむ かわいらしい。
 それでは 一度 院長先生にお会いした方がいいでしょうね と看護婦は言った。
 ちょうどその折 炉から地鳴りのように響いていた超高温の炎のうなりが 消えた。
 こちらもちょうど 終わったようですし と看護婦は言った。
 ここでは いったい 俺の何を 燃やしたのだ?
 と僕は訊いた。
 看護婦は 微笑んだだけだった。





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