病院


 巨乳看護婦と連れだって 最上階のすみっこにある院長室へと向かったのだが 病院には本当に 全くひとけがなかった。
 炉が稼働している音も消えて いまは静かで かすかにどこかから とぎれとぎれの音がしているだけだった。
 それは この病院にだれもいないとするならば おそらく 院長室から聞こえてきているのだろう。
 というよりも 僕はそんなことより 看護婦のそのゆたかな乳のほうに関心がいっていた。
 このような巨乳の人は なにをしてこんなふうになったのだろう。
 そんなことは関係ない 生まれつきだ と思う人も多いかも知れない。
 しかし 僕は あまりそうは思いたくないのだ。
 だって 生まれつきサイズが決まっているとしたら それはとても残酷なことじゃないか。
 とすると 男性のペニスというものも 大変残酷な存在ということになる。
 その意味で ペニスとバスト というものは等価なのかも知れない。
 看護婦の斜め後ろを歩いている僕の視線がそこに集中していることに 気が付いているのかいないのか 看護婦は表情を変えずにすたすたと歩いていく。
 院長先生というのは どんなひとなんだい と僕はたずねた。
 バストの思想がペニスの思想になってしまったので 僕はバストに対する興味を失って 看護婦に声をかけた。
 看護婦はすぐに答えた。
 変わった人です。
 変わった人。
 そうですね。
 それはどのように?
 口で説明するのはむずかしいのですが ある日わたしが院長室に入ったら 三〇〇kgはある 本マグロの解体ショーをしていました。
 ふむ。
 一階のナースルームに ソイヤッサ ソイヤッサときこえてきたので なにかおかしいなあ と思ったのです。
 ははあ それか。
 院長は 切り出したばかりの中トロを一切れ私に手渡し このままで食べてごらん と言いました。
 中トロ?
 そうです 大トロは脂がのりすぎていて そのままで食べるとかなりくどいのだそうです。
 中トロは おいしかったのかい。
 それはもう。
 ううむ 確かに変な人ではあるなあ と思いながら 僕は この看護婦もかなり変な人だよなあ とあらためて思った。
 彼女においてリアルな部分はおそらくこの肉体だけで もっといえば この夕張の大地で育ったメロンのような 巨乳だけが 彼女をかろうじて リアルという現象に つなぎとめているのだろう。
 そして 僕はそのリアルを媒介として いま彼女と こうして会話しているというわけだ。
 つきましたよ と彼女が言った。
 ドアは 細かい意匠が彫り込まれた 重厚な両開きの木製の扉で その上にかかったプレートには 確かに「院長室」と書いてあった。
 ドアの向こうからは ソイヤッサ ソイヤッサ と 威勢のいい 掛け声がきこえた。





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 最終話